第2部 第3章:次世代への引継ぎ(事業承継)第1節:事業承継を取り巻く状況
2013年度版中小企業白書において、事業承継が1章分のスペースを割いて取り上げられました。2013年は小規模事業者に対する支援施策の再構築が進められている時期であり、当白書では小規模事業者と中規模企業とを対比した図表が多く登場します。企業規模別での現状・課題の違いがあるのか、共通する課題は何なのかなど、事業承継の基礎と現状を鳥瞰できる内容となっています。
冒頭のリード文は、ほんの10行程度ですが、中小企業が抱える事業承継問題の本質を簡潔に表現しています。
■後継者の確保・養成
■資産・負債の引継ぎ
といった長期的な計画・遂行ができていないことを示唆しています。
また、経営者の子供への承継だけではなく、事業売却まで含めて選択肢を広げるべきであることを述べています。「長期的な計画・遂行」、「事業売却まで含めた事業承継」は事業承継関連の書籍等では必ずと言っていいほど出てくるテーマですが、数多くの事業承継の課題から、この2点をピックアップしたことは、支援者として念頭に置いておかなければなりません。
以下に図表を中心に内容のサマリーと考察を書いていきます。
【第1節】 事業承継を取り巻く状況
1. 経営者の年代と経営状況
【図2-3-1 規模別事業承継時期別の経営者の平均引退年齢の推移】
- 経営者の引退年齢は上昇傾向にある。
- 小規模事業者の引退年齢は中規模企業よりも高い。
少子高齢化が進む中、中小企業の社長年齢も(当然ですが)高齢化が進んでいます。また、上昇カーブが緩やかになっていることから、平均引退年齢が上限に行き着いたものと推察できます。
【図2-3-2 規模別・経営者年齢別の経常利益の状況】
- 経営者が高齢であるほど経常利益が減少傾向にある。
- 小規模事業者であるほど、上記の傾向が高い。
- 小規模企業で経営者年齢が70歳以上は約50%の企業が減益傾向である。
社長も人ですから、加齢による能力・体力・意欲等の低下は避けられないもの。会社の業績が落ちないうちに次世代社長につなぐことが望まれます。
【図2-3-3 規模別・経営者年齢別の今後の事業運営方針】
- 経営者が高齢であるほど「縮小・廃業したい」という傾向が強くなる。
- 小規模事業者であるほど、上記の傾向が高い。
2.事業承継のタイミング
【図2-3-4 事業承継時の現経営者年齢別の事業承継のタイミング】
- 最近5年間の現経営者の事業承継時の年齢は50.9歳
- 「ちょうど良い時期だった」と解答する現経営者の承継時の平均年齢は43.7歳。
- 上記2点を比較すると、「事業承継の最適年齢」は「実際の年齢」より約7年早い。
- 上記3点から、「後継者への事業承継は遅れている」と推察される。
50.9歳という年齢がどのタイミングなのかという疑問が残ります。社長というポジションを交代したタイミングだと推察できますが、社長交代後も先代が実質的に会社を支配する事例もかなりありますので、この図は参考レベルにとどめておいたほうがよいかと思います。
3. 世代交代による事業革新と地域、社会への影響
【図2-3-5 事業承継時の現経営者年齢別の事業承継後の業績推移】
- 事業承継時の現経営者の年齢が若いほど、承継後の業績が向上する。
【図2-3-6 規模別の経営者の交代による地域・社会への影響】
- 中規模企業の約66%、小規模事業者の約50%が「世代交代によって、地域や社会に良い影響があった」と考えている。
- 良い影響のトップは「やりがいのある就業機会の提供」
4.現経営者と先代経営者の関係の変化
【図2-3-7 規模別・事業承継時期別の現経営者と先代経営者の関係】
- 親族以外への事業承継が増加している。
- ただし依然として、親族(息子・娘)への承継が多い。
中小企業は、いわゆる「同族企業」が多いですから承継の第1候補は親族(特に息子・娘)となります。資本と経営との分離が明確でない中小企業においては、
第1節のサマリー
【事業承継のタイミング】
- 経営者の年齢が高くなるほど、業績が低くなるとともに、縮小・廃業に向かう傾向がある。その傾向は中規模企業より小規模事業者の方が顕著である。
- 現経営者の年齢について、「よい時期に承継した」と感じる年齢より、実際の事業承継時の年齢が約7歳上回っており、「事業承継の遅れ」が見て取れる。
- 事業承継時の現経営者の年齢が若いほど、承継後の業績は向上する。
【事業承継の形態など】
- 経営者の交代は、地域・社会に「就業機会の提供」などの良い影響を与える。
- 親族以外や第三者への事業承継が増加しているが、親族への承継が最も多い。
第2部 第3章:次世代への引継ぎ(事業承継)第2節:後継者選びの現状と課題
【第2節】 後継者選びの現状と課題
1.事業継続の意向と後継者難
規模別の経営者引退後の事業承継についての方針
- 中規模企業の大半が事業継続を希望している。
- 小規模事業者も約6割が事業継続を希望している。
- ただし、「事業をやめたい」と回答した小規模事業者は約14%。
※この集計は「経営者の年齢が50歳以上の企業」を対象としている。
小規模事業者の廃業理由
- 廃業希望理由の半分以上は「後継者難」。
- 後継者難の内訳は、「息子・娘に継ぐ意思がない」、「息子・娘がいない」。
「継ぐ意思がない」とありますが、じっくりと話し合ったうえでの結論なのか、疑問が残ります。はたして本当に「継ぐ意思がない」のか、「一定の条件が揃えば継ごう」と考えているのか、現社長と後継者候補という立場の対話と親と子という立場での対話が求められます。
2.承継形態別の現状と課題
規模別の現経営者の承継形態
- 小規模事業者は親族内承継が6割強を占める。
- 中規模企業の親族内承継は4割強。つまり親族以外による承継が親族内承継を上回っている。
中規模企業の親族/親族以外を後継者とする理由(複数回答)
- 親族以外の選択理由で多いのは「役員・従業員の士気向上が期待できる」、「役員・従業員から理解を得やすい」。
- 親族の選択理由で多いのは「血縁者に継がせたい」、「自社株式や個人保証の引継ぎが容易」。
中規模企業とはいえ、資本と経営とが完全には分離していない会社では、経営資産の引き継ぎ、つまり相続の問題は避けて通れないということです。
- 小規模事業者・中規模事業者ともに「経営者としての資質・能力不足」を挙げる事業者が多い。
- 中規模事業者の約4割が「相続税・贈与税の負担」を挙げている。
後継者が、事業を引き継ぐタイミングで十分な経営者の資質を持っていることは稀でしょう。経営の経験を積む助走期間あるいは現経営者との並走機関を設けたいところです。だから事業承継は十分な期間をかけなければなりません。
規模別の親族以外に事業を引き継ぐ際の問題
- 借入金の個人保証の引継ぎや自社株式・事業用資産の買い取りを挙げる企業が多い。
- 特に中規模企業では、個人保証と自社株式買い取りの問題が大きい。
純資産規模別の親族以外に事業を引き継ぐ際の問題として、借入金の個人保証の引継ぎが困難と回答する企業の割合
- 債務超過の企業は、個人保証を引き継ぐことが困難であると考えている企業が約6割。
債務超過以外を見ると、純資産の規模にかかわらず3割強の企業が個人保証の引継ぎを困難としていることに要注意です。
第2節のサマリー
- 小規模企業では依然として親族内承継が多くを占めるが、経営者としての資質・能力不足の問題が大きい。
- 中規模企業では、親族外承継が親族内承継より上回っている。親族外承継の問題としては、個人保証の引継ぎや自社株式・事業用資産の買い取りが大きい。
- 中規模企業の親族内承継のメリットとして、自社株式や個人保証の引継ぎが容易であることが大きい(このメリットは小規模企業にも当てはまるだろうと推察されます)。